2008年 ハロウィン小説


 ドアのロックが外される音が聞こえた。
 こんな時間に俺の部屋に来るのは刹那くらいなもんだ。案の定、「ロックオン、入るぞ」と奴の声が聞こえた。
 刹那ならいつでも大歓迎だ。むしろ俺の方が行きたいくらいだ。
 本を読んでいた手を止め、笑顔で迎えようとした俺は部屋の扉へと顔を向けた途端、その場で石化した。
「せ、刹那!?
 あろうことか刹那はメイド調のロリ服で登場してくれたのだ。しかもショートカットではムリがあるのにポニーテールにリボン。少しメイクも入ってるな。いや、似合ってるけどさぁ……。めちゃくちゃ可愛くて今にも俺のピピーが刹那のピーを狙い撃ちそう……いや、コレは全年齢対象。深い発言は避けようか。
 じゃなくて、めちゃくちゃ可愛いのは良いとして、なんで刹那そんな格好してんだよ、エクシアから啓示でもあったのか?
「なんて格好してんだよお前は」
 そう言うとやはり恥ずかしいのか、顔を紅くして目を伏せて健気にもこう言った。
「最近元気なかったからどうしたらいいかハレルヤに訊いたらコレを着ろって。髪はクリスがやってくれた」
 お、俺の為?
 思わずくらっときたね。だって刹那が俺の為にしてくれただけでも感激モノなのに普段は絶対しそうもない女装(メイド風ロリ服+ポニテ)なんだぜ?ああ、俺って刹那に愛されてたんだ……。今更ながらに再確認。
「迷惑だったか?」
 全ッ然! むしろ超元気出ました、いろんな意味で。
 ブルンブルンと音がするくらい首を振ると刹那は「そうか」、とほっとした様子で少し笑った――笑った!!? 刹那が? か、可愛い……。
 俺は勢いに任せ、刹那の肩をぐわしと掴んだ。そして、これでもかという程真面目な顔をした。
「刹那」
 俺の勢いに押され、少し後ざすりながらも刹那は俺の目を見返す。コレは流石に引かれるか……、いや! でもここで言わなければ俺は一生後悔する!
「一回で良いから、ご主人様って言ってくれないか?」
 刹那は目をぱちくりと瞬かせると、きょとん、と首を傾けた。
 ち、ちくしょう、ひとつひとつの動作がめちゃくちゃ可愛い!
「何か意味があるのか?」
「男のロマンです!」
 好きな子にメイドコスでご主人様、いいじゃないか。ご奉仕までしてくれたら最高だね。
 あまりにも俺の気合が入りすぎたのか、刹那は一瞬たじろいで、目線を逸らして、言った。
「ご、ご主人様……」
 俺、ちょっと、今なら死んでも悔いはないかもしれない。いや、マジで鼻血でそうですよ! ハレルヤナイス!
 黒髪にポニーテールでちょっと顔を赤らめながら伏し目がちにご主人様。
 ついでに手が胸の辺りで組まれてたりとか。
 さてさて、今日はご奉仕までしてくれるのか? 今夜は寝かせないぜ!
「ロックオン、そんなに嬉しいのか?」
 刹那は心底不思議そうに俺を見上げてくる。嬉しいですとも! これでまた闘う活力になった。
「どうして、これが良いんだ?」
「好きな奴がメイドコスで出てきて見ろ。ホント現実か疑いたくなるぞ」
 これは、自然な流れだよな? どこもおかしいとこないよな? しかし次の言葉を聞いて、俺は自分の耳を疑った。
「そうなのか……。じゃあロックオンも着てみてくれないか?」
 …………え? 今なんていった? 俺も着ろ、と。
「好きな奴が着てたら嬉しいんだろ? お、俺は、ロックオンのことす……好きだから。ロックオンが着てみたらその嬉しさがわかるかもしれない」
 すごい可愛らしく言ってるけど、ものすごいよね、それ! 一部分は普段でもめったに聞けるセリフじゃないだけに有頂天になってもおかしくないくらい嬉しいんだけど、明らかにそれはおかしいって!
「あ、あ〜……」
 目を泳がせてどう返答しようか考えてると、刹那は目を輝かせて詰め寄ってくる。
「俺もロックオンと同じ気持ちになりたいんだ。それにその意味が判ればもっとロックオンが喜ぶことができるかもしれない」
 せ、刹那く〜ん? あのですね、それはお前さんが着てるので可愛く魅力的に映るのであって、24のガタイのでかい男が着たらただの変態にしか見えないんですよ〜?
「あ、で、でもよ。そのサイズじゃ俺は入らねえわ。残念だったな」
 ナイス、俺! そーよ、俺と刹那じゃサイズ違いすぎるもんな。
「大丈夫だぜ! ほれ、お前サイズのXL!」
「ハ、ハレルヤァァァ!!?
 怒りと驚きの混ざった大音声。なんだ、この仕組まれたかのような筋書きは! 刹那はただ俺を慰めようとして着ただけじゃないのか!?
 ああ、刹那はキラキラした目でこっちを見てるし、これを断ったらしばらく口利いてくれそうもないな。そこら辺からチラチラ覗いているのはフェルトの髪か……計画的犯行か。
 なに? 俺なんか悪いことした?
 多分、アレだ。最近任務が多くてみんなストレス溜まってんだな。いっちょ気晴らしにって誰かが発案したんだろう(そいつ出てこい!)
 蟻が這う如く下がっていた俺は、ついに壁へと突き当たった。もはや逃げ場なし。そうだ、ティエリアがいればこんなくだらない事はよせというはず。
「ロックオン・ストラトス。観念して早く着ろ」
「ティエリアァァァ!!?
 絶望と驚きの入った大絶叫。なんでこいつまでメイドコスしてんだよ! しかもこっちはカントリー風か! なんだよ似合ってんじゃん、じゃなくて。
「お前、なんでそんな格好してんだよ」
「む、知らないのか? 今日はハロウィンといって仮装をする日……」
「ハロウィンでメイドはねえだろ!」
 そう言えば今日は1031日だったな。いつのまにやら集まってきていた面子も各自様々な格好をしている。おやっさんは狼男だしミス・スメラギは魔女。リヒティーは、なんだありゃゴ○ラか? 仮装なら何でもありかよ。
「じゃ、じゃあハレルヤもメイド服着るのか?」
「ああ、そん時はアレルヤになるがな」
「お前最低だぁぁぁ!」
 そこでひょい、とハルルやは状況が飲み込めてない刹那を俺の前に立たせた。
「ほら、刹那例のやつを」
 なんだ例のやつって、嫌な予感がビンビンするぜ。
 すると刹那はリボンを外し、前のボタンを3つ程外すと、俺の前で前かがみになって上目づかいになった。
「ご主人様、着てください……」
 グッジョブ、ハレルヤ! 胸元から見える鎖骨とか肩とかマジでセクシー……じゃなくて! 
「お前ら純真な刹那になんて事やらすんだ!」
「続きも教えてるが、着たら披露してもいい」
「着る!」
 恥なんて、欲の前ではちっぽけなものだな。即答した自分が少し哀れだ。
 刹那はこれは祭りと割り切ってるのか、一仕事終えた顔で服を戻している。
 しかしなんでマイスターはメイドなんだ。誰の趣味だこれ。
 醜くもロリメイドと化した俺はその後即効で酒盛りにつき合わされ、結局刹那は俺の部屋ですやすやと眠ってやがったよ。あれ〜?続きは〜?
どっかのボクシング漫画の主人公の如く真っ白に燃え尽きた俺は仕方ないのでちっこい身体を抱きしめ、涙を流しながら就寝をした(服は着替えたぞ)
 まあこいつのめったに見れない姿や仕草が見えたからいいか。……そう思わなきゃ、やってけねえよなぁ。

   fin..