2008年七夕小説


「知ってるか、刹那(せつな)。今日、77日は七夕と言ってお前の住んでいる日本ではお祭りなんだぞ」
 笹を片手にロックオンは刹那に向かって手を振った。
「奈良時代に中国から伝わった行事で五節句のひとつとして毎年全国で行われているんだな。地方の方じゃあ7月じゃなくて8月の7日にする所も少なくはない。今では棚織津女の伝説と合わさって伝わっているから織姫と彦星の話が有名だよな。でもこれには色々説があって……」
「そんなうんちくはどうでもいい。結局は何をするんだ?」
 今日までに必死に調べた知識をどうでもいいの一言で片付けられ、少々心に傷を負いながらロックオンは長方形の紙とペンを取り出した。
「コレに願い事を書いて笹に吊るすんだ。そうすると願い事が叶うらしい」
「本当かっ!」 マジで目を輝かせている刹那を見ながら「ああ、そういやこいつはサンタも信じてたっけな」とかちょっと哀れになりつつ紙を差し出した。
「ひとつだけか?」
「数は決まってなかったと思うけど、あんま沢山書くと叶わないかもな」
「そうか」
 紙を一心不乱に見つめながら願い事を考える刹那の背中を見て、思わず涙が出そうになった。
「楽しそうですね、何をやっているんですか?」
 ロックオンも書き始めようと椅子に座ると、ミーティングルームのドアが開いてアレルヤとティエリアが姿を見せた。
「七夕だよ」
 ロックオンが笹を見せると、二人は納得したように頷いた(なぜ日本人じゃない二人が七夕を知ってるんだとか言うツッコミは受け付けませんby夕弥)
「織姫と彦星の伝説だね、ロマンチックだよね」
「と言うか宇宙にいるとそこらじゅう天の川だから彦星も織姫もないと思うんだが」
「……ティエリア」
 見も蓋もない言い方で冷たく呟いたティエリアを、アレルヤが( ̄□ ̄;)な顔で見た。
「まあまあ、お二人さんも一緒にどうだ? たまにはこういうことしても良いだろ」
 特に異存はないのか二人も紙を取り、各自の願い事を書き始めた。
「刹那はどんな事書いたんだ?」
 ロックオンが上から覗くと、拙い文字で『カンタムになりたい』と書いてあった。
「……刹那、濁点を忘れてる」(ここでもなぜ日本語で書いてあるんだとか以下略)
「え?」
「ガンダムがカンタムになってるぞ」
 刹那は慌てて紙を見ると、まさにその通りだった。
「まだお前スペルミスしてんのかよ」
「う、うるさい! 勝手に見るな!」
「そんな事言って、お前もし叶って訳の判らんものになったらどうするんだ」
 真っ赤になった後ロックオンの言葉を聞いて逆に真っ青になった刹那を見てロックオンは内心「こいつ本当に可愛いなぁ」とか思ったとか思わなかったとか。
「アレルヤは?」
『マルチーズが艦内で飼えるようになりますように』
「……ああ、うん。なるといいな」
 ロックオンが物凄い棒読みで言うと、アレルヤは輝いた笑みで振り返る。
「ですよね! やっぱり癒しは必要ですよ! これは笹にかけるよりもスメラギさんの枕元にかけたほうがいいと思うんですg……」
「やめい!」
(絶対叶いそうもないな)
「ティエリアは――」
『戦争根絶宣言』
(うーわー、願いじゃなくて宣言しちゃったよ、この人。てか戦争は痘瘡ですか。WHOですか)
「……ま、気持ちは判るけどな」
「地球に巣食う害虫と言う意味では同じです。それよりあなたは人のを見てばかりで自分のは見せないのですか?」
 確かにと言った(てい)で刹那とアレルヤが振り向く。ロックオンは目を逸らしながら後ずさった。
「あー、別に面白れえもんじゃねえぞ?」
「他人のを見たんだから、お前も見せるべきだと思う」
 珍しくはっきりと刹那が言い切った。
「怒らない?」
「なぜ怒るんだ」
 訝しげに眉を寄せる刹那を見て、ロックオンは苦笑の息を洩らす。
 おずおずと差し出された紙にはこう書いてあった。
『この夏こそ刹那と本懐が遂げられますように』(もちろん、性的な意味で)
 その場の空気が音を立てて固まった。
 この後ロックオンは刹那にぼこぼこにされティエリアに説教を喰らったとかなんとか……。
 平和なコロニーの一場面でしたm(_ _)m

   fin..