2009年 年賀小説


「ロックオン! 羽根突きやるぞ!」
 刹那の部屋でゴロゴロと転がっていたロックオンに刹那は下から蹴り上げ叫んだ。
「刹那、どうした」
 腹を蹴られ、呻きながら目を白黒させる。刹那は期待に満ちた瞳でロックオンに命令した。
「隣の沙慈・クロスロードから羽子板と羽根をもらった! 外に行ってやるぞ」
「まて、刹那。落ち着け」
 状況が飲み込めていないロックオンは、刹那の足をどけ、起き上がった。
 今にも外に飛び出しそうな刹那を押さえつけ、事情を聞く。
 どうやら先程、刹那は隣の部屋に住んでいる沙慈・クロスロードからおせち料理の差し入れを貰ったらしい。そこで正月を全く知らなかった刹那のために、沙慈は家の中から古い羽根突きセットを持ってきて貸してくれた、と。そこでルールも教えて貰い、ぜひ友達と遊んだらいいよとアドヴァイスしてもらった、そこでたまたま遊びに来ていたロックオンと一緒にやりたい、というのだ。
「成る程、事情は判った」
 そわそわと落ち着かない刹那に、ロックオンは重々しく頷いた。
「ロックオン、羽根突きをやろう!」
「俺はルールを知らないんだが……」
「簡単だ。羽根を板で突いて落としたら負けなんだ」
「バトミントンみたいなもんか」
「で、負けたら顔に墨で落書きされるんだ」
 ちゃっかり墨汁と筆も借りている刹那に、ロックオンは苦笑する。
 キラキラと目を輝かせて迫ってくる刹那をロックオンは抱きしめた。
「何するんだ!」
「刹那可愛いなぁ〜。そんなに羽根突きしたい?」
「可愛くはないっ!」
 じたばたと暴れる刹那を押さえつけ、ロックオンは笑みを深くする。刹那は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「……なにか変な事考えてないか?」
「ん? いやね、罰ゲームが顔に落書きって子供っぽくね? もっと大人的な罰ゲーム考えようぜ」
「……例えば?」
 嫌な予感をビシビシと感じながら腕の中で身を捩る。ロックオンは刹那の上着を上に捲ると、待っていたとばかりに毅然と言った。
「負けたら一枚服を脱ぐ!」
 部屋の中に空虚な空気が広がった。しばらく呆然とロックオンの顔を見上げていた刹那だが、脳みそまで理解度が到達すると、真っ赤になって反論した。
「な、なに言ってんだ!外でやるんだぞ外で!」
「野外プレイってのもよくない?」
「よくない! なに考えてんだ!」
 断固拒否の姿勢をとる刹那の頬をぷにぷにとつつき、ロックオンは耳元で囁いた。
「なに? 刹那負ける気満々? 悪いけど、俺は一枚も脱ぐ気ないぜ?」
「なっ!」
 刹那の頬が違う意味で紅く染まっていく。目が半眼になり、板を持つ手に青筋が浮かぶ。
「判った、表へ出ろ。全部剥いでやる」
 ぶつぶつと呪いの語を呟きつつストールを掴む刹那を、ロックオンはしてやったりと言った顔で後をついて行った。



 今回の刹那とロックオンの服装を参考までに載せておくと、刹那は上から白のストール、ジャンバーに長袖のTシャツ、ズボンに靴下。ロックオンは厚手のコートに薄いセーター、その下に黒のタンクトップでズボンに靴下、となる。
「覚悟しろ。真っ裸にしてやるからな」
 後ろに黒雲を轟かせながら、刹那は構えのポーズをとる。
「あ、お隣さんだ。さっそくやるのかな」
 通りがかった沙慈・クロスロードとルイス・ハレヴィ、沙慈の姉の絹江・クロスロードはふと足を止めた。
「あの人がお隣さんの彼氏さん?」
「姉さん、それ違うよ……」
 絹江の感想に沙慈が突っ込むと、そうなの? と絹江はルイスに顔を振った。
「そこで何でルイスに訊くの?」
「「だって沙慈は鈍いから」」
 ダブルで返され、少し戸惑う。
「あ、ほら。始まるよ」
「俺がガンダムだ!」
 勢い良く掛け声をかけ、いきなりスマッシュを決める。しかし目にも止まらぬ速さで打ち出されたそれは、小気味のいい音を立てて打ち返される。弧を描いて刹那の方に返されたそれを、刹那はまた力いっぱい打ち返す。
「なんか判らないけど、凄い」
「ん、でも最初の掛け声なんだったんだろうね」
 呆然と左右に打たれる羽根を見送っていると、その内第一戦の決着がついた。
「んじゃ、ちょっと本気出すかな」
 しばらく楽しむように打ち返していたロックオンが、小さく呟くと返ってきた羽根を横に凪ぐように叩く。急にスピードを増した跳ねに対処できず、刹那の額に気持ちよくぶつかった。
「〜〜〜っ!」
「ホラホラ、早く脱ぐ。なんなら、脱がせてやろうか?」
 額を押さえて呻く刹那に、ロックオンは余裕の顔で笑う。刹那は涙目でロックオンを睨むと、意地になったようにストールを掴み横に剥いだ。
「次は脱がす!」
 そう宣告してもう一度再開する。
「なんで、脱いだんだろ……」
 そう呟いて同意を求めようと横を向いた沙慈は、ギョッとして動きを止めた。
「ルイス、これはマジかしら」
「マジですね、お姉さま」
 そう言って目を輝かせている二人に、意味が判らず沙慈は狼狽する。
「あの、何がマジ……」
「ルイス! 録画しないと!」
「はい! すでに携帯は準備済みです!」
「姉さん!? ルイス!!?
「「あんたは黙ってなさい!」」
 反射的にぴしっと改まる。嬉々とした表情で録画撮影に入る二人と一緒に向き直ると、第二戦も間もなく終了しようかという頃だった。
「どうした刹那〜、息が上がってるぞ〜」
「う、うるさい!」
 毎回全力で返しているため、刹那は少しバテ気味になっていた。
「ほい、これで最後だ」
 カーン、といい音がして刹那のすぐ右を通った。膝を突いて肩で息をする刹那を、ロックオンは苦笑気味に肩を叩いた。
「ここらでやめとくか?」
 眦に涙をため、きっとロックオンを睨むと、刹那は立ち上がってジャンバーを脱いだ。
「次だ!」
「刹那、ムリしなくてもなかでじっくり……」
 外野で密かにブーイングが上がっていたが、まったく気付かない刹那はロックオンを睨みつけて胸倉を掴んだ。
「つ・ぎ・だ!」
 ロックオンはヤレヤレと嘆息すると、刹那を抱え上げた。
「こら、ロックオン! 続きはどうするんだ!」
「はいはい、続きは場所を変えてやろうなー」
「はぁ!? なんで?」
 その疑問には答えず、片手に刹那を、もう片手で刹那の服を持つと、ロックオンは人気のない方に歩き出した。後ろではいつの間にか増えたギャラリーが残念そうな声を上げる。
 ロックオンは刹那の罵倒に答えながら、一瞬だけギャラリーに目を向けると片目を瞑って見せた。
 更についていこうとしていた数名の女性たちは、う、と息を飲むと残念そうに立ち去っていった。
「あー、行っちゃった」
「あのお兄さんはやっぱ判ってたのかしらね」
「あの、二人とも……本当に何を……」
「沙慈」
 恐る恐る口を挟んだ沙慈に、ルイスは感情のこもらない声で話しかけた。
「な、なに?」
「刹那、だっけ? あの子としっかり仲良くなってね!」
 満面の笑顔でそう念押しされる。後ろに黒いオーラが出ているように見えて、沙慈は震えながら肯定した。



「ロックオン! なんなんだ!」
 自室にムリヤリ連れて行かれた刹那は憤ってロックオンに詰め寄った。
「……嫌だったんだよ」
 困ったような顔をした後前髪をかき上げ、胸倉を掴んでいた刹那を包み込むように抱きしめ、そう言った。
「刹那の裸を他の奴に見せるのが嫌だったんだよ。刹那は俺のモンだ。そんな姿は俺だけが知ってればいい」
 妙に真面目な声で囁かれ、刹那は少し落ち着いたのか、ロックオンの胸に身を委ねる。
「……俺が負けるとは限らなかった」
 拗ねたように憎まれ口を叩く刹那が可愛くて愛しくて、ロックオンは刹那の耳朶を甘噛みした。
「……っ、ロックオン……っ」
 敏感な部分を優しく舌で撫ぜられ、刹那は責めるように彼の名を呼ぶ。
「刹那、してもいい?」
 ゆっくりとベッドの上に身体を倒し、さらりと髪を鋤く。髪から指が離れると、耳の後ろをなぞり、首筋に指を滑らせていく。
 感部にあたる度にピクリ、ピクンと反応しながら、刹那はきゅっとロックオンのシャツを掴む。
「……訊かなくても判ってるんだろ?」
 瞼がとろんと蕩けている刹那が、上目線でロックオンを見詰める。
「ばか、限界が切れただろう」
 嬉しそうにそう言うと、ロックオンは刹那の上に覆いかぶさった。
 キスをすると、それに応えるように拙くも舌を絡めてくる。そんな刹那を心底愛しく思い、ロックオンは刹那の身体に溺れていった。

    fin..