red sky



 都会と言うほど発達した街でもなく、田舎と言うほど衰退した街でもない。
 程好い喧騒と雑音が響き、それでもそこまで五月蝿くもない、そんな街にソレスタル・ビーイングのガンダムエクシアのパイロット、刹那・F・セイエイは周りから身を隠すように暮らしていた。
 特に知り合いもなく、尋ね来る人もない。
 そんな休日は、刹那は何をするでもなく買い漁った新聞を眺める。
 休日があるということはその前は仕事がある。彼の仕事はガンダムに乗ること――世界を作り変えることだ。とはいってもやっている事は傍から見ればただの殺戮と変わらない。自分は信念を持ってやっているとはいえ、たまには迷いも出る。
 刹那の頭には目の前の文字の羅列は全くと言って良いほど入っていなかった。
 握っている手には、コクピットのコントローラーの感触。手を動かせば、光る刃が鋼を切り裂き爆音を招く。
 爆発を後にしてまた切り裂く。彼の機体は接近戦に秀でており、他のマイスターに比べて人を殺すという実感はより肌に焼きつく。
 刹那は幼少期より人を殺すという行為を数え切れないくらい行ってきた。しかしなんど殺しても殺人への嫌悪感は拭い去れない。
 くしゃ、と新聞の端を握り締める。爪で紙が破れ肌に食い込むほど、彼は手を握り締めた。
 喉へ何かが競りあがってきた。形のない、何か。それは殺めた者への罪悪感だろうか。それとも殺人への恐れだろうか。
 いや、と刹那は頭の中で否定する。
 そんな感情はとっくに捨てた。物事を変えるには常に犠牲は付き物だ。
 そうだ、と彼は考えた。
 犠牲はでるのだ。必要な犠牲なのか、必要ない犠牲なのかは定かではないが、犠牲になった者は数多も見てきたではないか。
 例えば、先日殺した軍人。神を信じたまま散っていった同志――そして、自ら手で殺した両親。
 何を恐れる。
 刹那は唇を噛んだ。
 自分たちは、偽りの平和を崩し、永久平和を作るのだろう?
 必要なのだ、この世界に自分たちの存在は。
 それは確かな事。そして刹那を支える信念の一つ。
 ああ、なのに。
 刹那は窓越しに見える空を見上げた。
 この胸のわだかまりはなんなんだ。この胸に込上げる漠然とした不安はなんだ。自分たちは、俺たちは……。
 窓の外が朱く染まっていく。夜の帳をおろす前の精一杯の宴。見た者を癒す、朱い色。
 刹那・F・セイエイ。彼はその色が戦場で見た血の滲む爆音に見え、吐き気を抑えながらカーテンを閉めた。

   fin..